Ham House:17世紀のリッチモンドの隠れ館

 

「ロンドンは何度も行ってますので、郊外のバスツアーも含めてほとんど経験しています。」

  

というお客様のリクエストに、頭をひねって考えた。

そうだ! リッチモンドのハムハウスに、ちょうど行って見たかった。

 

そうして、ハムハウスの勉強が始まった。このお家は、1610年の建設。その当時のキング、チャールズ1世が子供の頃の「ウィッピング・ボーイ」だったウィリアム・マレー(Willam Murray)に、キングから贈られた家だという。

はて、Whipping Boyウィッピング・ボーイとはなんぞや、から始まった。 

 

ウィリアム・マレー、ダイサート伯爵。キングの代わりに受けるお尻の痛さも、この豪華屋敷が代償なら我慢します!
ウィリアム・マレー、ダイサート伯爵。キングの代わりに受けるお尻の痛さも、この豪華屋敷が代償なら我慢します!

1600年頃、王子が子供の頃、王子が悪さをしたら代わりに叱られ、お尻を打たれる役目の子供がいたそうです。それがウィッピング・ボーイWhipping Boyであり、 ウィリアム・マレーだったそうです。

英国の市民戦争で敗北し、処刑になったキングチャールズ1世。そのキングの子供の頃の幼少の友人であり、ウィッピング・ボーイだったウィリアム・マレーにこのお屋敷が、1626年ギフトとして贈られました。

 

 

ハンプトンコート宮殿、リッチモンド宮殿(現在は消失)、グリニッジの宮殿(消失)は、すべてがテムズ川で繋がれ、そのルート上に、このハムハウスがありました。キングやその側近が、行き来し易いようにその館や宮殿たちはすべてテムズ川沿いにあったのです。

 

地下鉄で移動することが通常の現代の私たちには、(近くに駅のないこの館は)かなり不便といえます。リッチモンド駅からタクシー15分、徒歩10分+バス移動で30分の距離。

 

正面に流れるテムズ川
正面に流れるテムズ川

 

お家のファサードには、ギリシャの哲学者や、キングの胸像が並んでいます。豪華エントランス。

Dysart伯爵だったウィリマム・マレー(~1655)の没後、この家は、その長女エリザベスによって、引き継がれています。

Countess となって爵位を引き継いだエリザベスは、2回目の結婚でLauderdale公爵と結婚、The Duke and Duchess of Lauderdale(ローダデール公爵夫人)となっています。(下が後に結婚した夫、ローダデール公爵と後年の彼女)

(当初の夫は、滞在先のパリで死去。不審な死を遂げています。その後すぐに再婚)

 

 

この1626年にキングから父親に授与された家は、彼女の時代に大々的にモダンに改造されました。

1階の天井に大きな「穴」が開けられ、吹き抜けが作られ入り口から大きな光が入りグランドな雰囲気になりました。

 

エリザベスは、この時代の女性としては珍しく、政治的に大変影響力を持っていた女性だったそうです。

 

ちょうどこの頃に起きた議会派と王室派の市民戦争にて、たいていの王室派は、地位や資産が没収となりその富を無くしていますが、彼女の場合は、議会派頭首となったオリバー・クロムウェルと懇意になり、全く議会派と思われていました。

 

しかし、その裏で、王室派を支持し、フランスに逃亡している次期の王チャールズ2世と密に手紙を交換し、王政復古を成し遂げることに加担していたのです。(まったくスパイ!)その時の手紙の交換に使われた鍵付きチェストが、現在もベッドルームにあります。

その後、王政復古にて地位についたチャールズ2世から、賞金として年間800ポンド(現在の価値は不明ですが、おそらく数千万円?)の年金の報酬金を受け取っています。

 

実は、1度目のご主人は、1669年フランスで不審な死を遂げていて、その後すぐ(Very soon)、彼女は次の夫となるローダデールの愛人となり、(ローダデール公爵夫人の死後)数年後には結婚しています。

なかなか、食いっぱぐれをしない強かな女性だったようです。

 

奥の部屋は王室派らしく、大ホールにたくさんの肖像画の中に、チャールズ1世、チャールズ2世の肖像画がかけられています。


 

そして、秘密の扉の向こうには、キング、クイーンの訪問用に増設されたという隠れたお部屋があるのです。

決まった時間に、スタッフ付きで入場が可能です。この部分だけその方のガイド説明付き。(英語)

実際のこのベッドルームに泊まられた王室のメンバーがいるのですが、それは誰でしょう!?

現地へ行かれてのお楽しみ。

お家の外にも、ガーデンや裏庭、おみやげショップやカフェ、地下には、薬を作ったというハーブ調合所、バスルーム、キッチンなどがあります。かなり広いので、見所がたくさん。

 

しかし、1610年の館が、この保存状態でロンドン(近郊)に現存することにかなり驚きました。

ロンドン市内は、1666年のロンドン大火でほとんどの木造の建築は消失。

グリニッジにあった宮殿も、このチャールズ2世により時代遅れとして取り壊されており、こんなお屋敷は1軒も残っていません。

 

リッチモンド駅から不便なその道のりも、1日かけて行く価値はあります。歴史好きな女子には、かなりオススメです。

ナショナルトラスト管理、開館は、12.00-16.00なので気をつけて。

(日本語の解説書はありません。個人ガイドサービスは、こちら